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外からガタガタ、ドタドタという音が聞こえる。それに少しの悲鳴。
たしかに周りに止まってる人はだいぶやばそうな人たちだな、とは思っていた。
…でも。自分が巻き込まれるとは思ってもみなかった。そう、部屋に入ってこられるまでは。

「次はこの部屋です、姫。」
「…ここ?本当にいる?逃げてる音とか一切聞こえなかったんだけど。」
「…調べた限りでは。」
「…一般人だったら、どうする?」
「それは…。」
「ま、入ってから決めようか。」
「はい、姫様。」

 

そんな非日常な会話が聞こえてきて、ゾッとした。
そして、部屋の扉が開く音がする。
まって、俺の部屋?おかしくない?
そんなことを思ってるうちに、明らかにヤクザの人たちが入ってくる。

その後ろから現れたのは華奢なロングヘアーの女の子。

 

「…、ね、言ったよね?一般人だったらどうするって。」
「逃げたあとってことですか?!」
「だって、他の部屋にいる人達どう見ても重鎮じゃなかったよ?まぁ、組員か否かって言われたら組員だったけど。」
「さすがの洞察力で、姫。」
「…で、ほうけてる君の名前は?」

 

そうして、ぎょろり、と俺に目線を姫と呼ばれた彼女は向ける。

 

「こ、香賀美、タイガ…だ…。」
「…、ほら、やっぱり聞いたことがない、一般人じゃない。で?この現場どうするの?」
「選択肢としては記憶を消すか殺す、と言ったところでしょうか。」
「僕、人を殺すのは嫌いってさんざん言ってるよね?」
「す、すいませんでした…!」
「…で、そこの香賀美くん、…あれ?」

 

そう言って言葉を切って、そっと俺に近づいてくる。それによって察するが、俺よりも若い女の子だった。

 

「…綺麗。」
「は?」
「とっても綺麗な瞳の色してるね…おにーさん。」
「そ、それはどうも…?」
「ね、家にこない?嫌なら…、どうしようかな?」
「い、行かないなら…?」
「殺す…しか選択肢がなくなるけど。」

 

そうして赤い赤い、血のような赤い色の目を細めながらどこかに持っていたのだろう、拳銃を俺の額に当てる。
流石にここで死にたくはない。

「…家に行くのはいい、一つだけ交渉をしていいか?」
「一般人の分際で?…ま、殺すのは忍びないから交渉、受けてあげる。」
「毎日お前の家に戻る、送迎もあって構わない、せめて仕事はさせてくれ。」
「…どういうこと?」
「仕事の穴は開けたくないんだよ。それだけだ。毎日言われたところに戻る。だから仕事はさせてくれ。」
「…、じゃあ、こっちからも条件つけるね。…キミの仕事に行くのは認めるから、行きはうちの組合員、帰りは僕が迎えにいく。…それでも構わない?」
「…あぁ、それでいい。」
「じゃ、交渉成立ね。仕事場所は明日までに調べておくから。まぁ、明日の朝だけ僕とうちの組合員1人で送っていくから。僕は遅刻確定だけどね。」
「…お前、いくつだ?」
「…15だけど?そこそこ真面目に学校に通ってる女子高生。」
「いや、お前学校にいけよ…。」
「殺されたい?」
「送られていきます。」

 

そうして、俺の手を取って着替えて?と首をかしげて、そして俺が着替えやすいように隣の部屋へと消えていく。
組合員の男性は残してだが。
そうして着替え終わった後、彼女に嬉しそうに手を握られて、ホテルを後にした。…たまたま泊まっただけでこんな災難あるだろうか、なんて思いながら。


_______________


 

次の日までに俺の会社について調べ終わってたのか、普通に起こされた。…彼女の平手によって。

 

「…香賀美くん?朝だよ?」
「…いってぇ…、叩くなよ…。」
「この時間には起きて準備しないと会社には間に合わないと思うけど。たとえ車送迎だとしても。」
「…え?」

 

そうして時計を見る。7時30分。
…どのくらい時間がかかるんだろう、と思って彼女に顔を向けると。

 

「ここから30分はかかるからあと1時間以内に出ないとやばいと思うけど?」
「…え?」
「…ほら、準備して?」
「はい…。」

 

そうして部屋を出ていく彼女。
流石に準備をしているところまでは干渉しないらしい。
ぱぱっと準備して部屋を出ると、廊下に組合員。食卓に連れていかれ、席につかされる。

 

「じゃ、みんな揃った?…よし。今日も元気に頑張っていこうね!いただきます!」

 

その声に組合員達はいただきますとご飯を食べ始める。戸惑っていると、食べていいんだよ?と彼女から声がかかる。
一口含むと、一般的な家庭の味。普通に美味しい。
お腹がすいていたのか、すべてを平らげてごちそうさま、と言ってとりあえずお皿を重ねる。

 

「片付けは秦野がやるから。…ほら、香賀美くん、出ないと。矢北、車出して?」
「おうよ、姫様。」
「調べはついてるから大丈夫。きっちり送り届けてあげるね?」
「…あ、あぁ…。」

 

そうして、荷物を持たされ、車に乗せられる。
そっと流れる景色を見ながら、隣にいる彼女を見ると、少しだけ、少しだけ寂しさが滲んで見えた。
なぜ?と考え始めて少したった頃、会社につく。本当についた。

 

「じゃ、香賀美くん、また帰りにここで。僕は学校だから。」
「…あ、あぁ。」
「お弁当、頑張っていっぱい詰め込んだから食べてね!」
「…え?」
「じゃ、いってらっしゃい。僕も今から学校だから。」
「お、おう…。」

 

そうして彼女はそのまま去って行った。
このまま家に帰ることも出来るな、なんて思いつつも、彼女のさっきの顔を見たらできなくなってしまった自分には気が付かなかったことにしたかった。

______________


夕方、逃げられてても仕方がない、なんて思いつつも、彼の会社へと向かう。
すると壁にもたれかかって待ってくれている彼が見えた。…嬉しい、凄く嬉しい。
今回は殺さずにすむ、そう思った。
前回の人も一目惚れしたはいいけれど、逃げていかれてしまった。口封じに殺さざるを得なかった。とても辛かった。
そう、それをやったのは中学の頃。しばらくはもちろん上手くうごけなかった。
そうしてそっと車から降りて、彼の元に走りよると一言、ぼそっと言ってくれる。

 

「…弁当、うまかった。」
「よ、よかった…。さ、帰ろう?」
「…おう。」

 

そうして、彼の手を取って車に向かう。
乗った後は行きと同じく静かな車内。
嫌われてるなんて、わかってる。僕のわがままなのだから。
でも、それならどうして、そう思わずにはいられなかった。
しばらくぽーっとしていると、あまりにも眠くてついあくびをしてしまった。
すると、思わぬ方向から声がかかる。

 

「…寝れば?」
「…っ!えと、え?」
「…何驚いてんだよ。寝ればって言ったの。上着くらいはかけてやるから。」
「その…、え?」
「…ほら。」
「う、うん…。」

 

そして彼の上着をそっと自分でかけて目を閉じる。
久々に感じた、純粋な優しさだったかもしれないな、なんて思った。


______________

「…寝たか。」
「香賀美?」
「俺のことか。何だ?」
「…ありがとうございます。姫様のことを大切にしてくれて。」
「そんなつもりじゃ、でも、行きに外みてから、こいつの顔を見たら、寂しそうな顔をして外を眺めてた。…よくわからないけど、一人にしちゃいけないって、そう感じたんだ。」
「そう、か。寂しそうにしてた、か。…俺達の姫様の心を溶かしてやってください。今まで色々あった。俺たちの前じゃまともにそういう顔は見せない。見てしまったに近いのかもしれねぇが、それでも見られたお前に希望を託したい。」
「…ほぼ初対面状態の俺に託すのか?」
「幸いお前は姫様に見初められてる。…できねぇ事は無い、そう俺は考えてる。」
「…できるところまでじゃあやってみる。…それでいいか?」
「あぁ。よろしく頼む。」

 

そう運転手の男、おそらくは矢北とか言ってたか…?に頼まれて、引くに引けなくなったな、と思った。
寝てる時は無垢な顔してる隣の姫様こと僕っ子を眺めながら。

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