うららかたいむ。
またやってる…、なんて思いながら眺めるだけ。もう4度目だし、これからもきっと見る光景だろうし。
「タイガくん、それ、好きだね…。」
「…普通にうまいぞ?これ。」
「…いや、僕はいいや。」
「そうか。」
彼が何をやってるのかって?
…シェイク(バニラ味らしい)の中にポテトを刺してるだけなんだけどさ。
一見異様だよね、うん。
僕?もう見慣れちゃったかな…、残念ながら。
さて、ナゲットでも食べよう。
そうして、初めて見た時のことを思い出して少し苦笑いをした。
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ある日のことだった。
「なぁ。」
「な、なに?タイガくん…。」
「そんなに固くすんなよ…、バーガー食いに行かねぇ?」
「ん?そういうことならいいけど…。学校帰りだよ?」
「お前いい子ちゃんぶるなって…、付き合え。」
「そんなつもりはなかったんだけど。わかった、付き合うよ。」
「よし、じゃああそこに行くか。」
そうして僕は彼のあとを追いかけた。
そうしてたどり着いた先はワールドマーケット。そういえばこの中にバーガー屋さんあったなぁ、なんて思い出す。
そしてその一角にあるフーズコートへと足を運んだところで。
「えーっと、色々あるんだなぁ…。ドーナツにうどんに…、あっ、カレーもある。いってつ…カレー…?今度食べに来ようかな…。はちみつ入りってどんな味かな。」
「…シン、」
「わかってる、今日はハンバーガーでしょ?」
「なら、いい。」
「もう…タイガくんってば。」
そうして手を引かれるまま隣に並び、お互いに注文する。僕はチーズバーガーにポテト、飲み物はお茶。至って普通だ。
テーブルを見つけてそこに腰を据えるとタイガくんが既にポテトを食べながらやってくる。
「さ、流石に席についてから食べようよ…。ね?」
「その指図は聞く気ないな。…冷めると不味いだろうが。」
「えぇ…、…うん。もういい…。」
「よっと、」
そうしてタイガくんも買ってきたものを机に乗せてから座席にどっかりと座って荷物を下ろす。
タイガくんが買ってきたのはハンバーガーにポテト、それにシェイク…ってえ?!まって、え?!
「タイガくん、な、何やってるの…?!」
「ん?やらねぇのか?お前。」
「いや、流石にシェイクにポテトは初めて見たんだけど。」
「はぁ?普通だろ?これ。」
「いや、初めて見たよ、それ。なにそれ、どんな味がするのかも想像がつかないよ…。」
「…スイートポテト、みたいな。」
「いや、えっと、…はぁ。」
そう、タイガくんはおもむろに蓋を開けてポテトをシェイクに刺し始めたんだ。いや、初めて見た。むしろなんで刺すのかわからない。だって塩味ついてるじゃない。
その日は目の前ですべてのポテトをその食べ方で食べるタイガくんを怪訝な目で眺めながらハンバーガーを食べることになったのだった。
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ナゲットをはむ、と食べながら教科書を読みつつタイガくんを見る。
実に普通に食べてる。…不思議過ぎる。不思議にも程がある。
「おまえさ、それ読んでるけどわかるのか?」
「…半分くらい、かな。」
「どこだよ、わかんないところ。」
「えっとね、ここなんだけど。」
「めちゃくちゃかんたんなところじゃねぇかよ。貸せ、それ。解き方教えてやるよ。」
「ほんと?じゃあこれ。」
「お、ポテト。」
教えてもらうのにポテトをあげる。そのポテトも彼のシェイクの中に突っ込まれたのは言うまでもない。
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「シン、バーガー。」
「僕はバーガーじゃないけど。…また行くの?」
「嫌ならいい。」
「いや、行くよ…。その位は付き合う…。」
「おう。」
そうして、またしてもやってくる。
そういえばまだカレー食べてないなぁ。ひとりで行った時にでも食べよう。今日は何食べようかなぁ、すこしだけ考えてテリヤキバーガーとコーラ、それとポテトにする。
そうして買って戻ったら、またやってた。
それ、本当に好きなんだね…、という感想しか浮かばない。
「タイガくん、それ。」
「あ?だからうまいって言ってるだろ?」
「それはわかった、またやってるなぁ…って思っただけだから気にしないで。」
「あ、そう。」
そしてタイガくんの横に座ってもぐ、とテリヤキバーガーをを食べる。…いや、シュール、すごくシュール。目にシュール。僕も何を言いたいのかわからなくなってきた。
まぁ、美味しそうに食べてるからいっか、なんて思った。
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寮のコートでタイガくんと2人で練習してた時だった。ふう、と一息ついて時計をみるとお昼時。
「タイガくん、なにか食べようか、そろそろ。」
「じゃあバ、「わかった。行こう。」
「お前…、俺の声に被せてくるなよ…。」
「なんとなくそういうと思ってた。」
「あー…そうですかー…。」
そしてお互い私服に着替えて自転車で向かう。吹いてくる風はすごく気持ちよかった。吹いてくる風は。
練習してお腹がすいたのもあってダブルチーズバーガー、ポテト、ナゲットに飲み物は今日はオレンジジュース。
買って戻るとタイガくんの手元には大きめのハンバーガー、ナゲットの箱が2つに…ポテトの刺さったシェイク。
「ずいぶん食べるね。」
「おめーもな。…ダブチとかお前食うのか。」
「おなかすいたしね。ちょっと多めに食べてまた練習しようと思って。」
「そっか。」
そうして彼がまたシェイクにポテトを突っ込む。自然とその行動を目で追ってしまう。
「なんだよ。」
「い、いや、なんでも。」
「これはやめねぇからな。」
「しってる。」
「あ、そ。」
そうしてもぐもぐと食べながら、ここがうまくいかなくて、なんて相談をする。帰ったらお手本を見せてやる、なんていわれてありがとう、といいつつポテトをシェイクに刺してあげた。
すこしだけ目が輝いたのは見なかったことにしたい。
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「…で、こうなるんだけど。」
「あぁ、なるほど。ここが間違ってたのか…そりゃあ進まないよね。」
「なんだ、そこ間違えてたのかよ。…ま、解決したようなら何よりだけど。」
そうして少なくなってきたシェイクに最後の1本を突っ込む。それを苦笑いをしながら眺める。
幸せそうだしもう突っ込むまい、そう思った。
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ひとりでフーズコートにいるんだけど。
いつも気になってたんだよね。どんな味か。
…こ、こわいけど、試してみる…?
「いらっしゃいませー!何になさいますか?」
「えっと、ハンバーガーと、ポテト、それとシェイクを1つずつお願いします。あ、水もください。」
「ハンバーガー、ポテト、シェイクと水ですね。かしこまりました。」
そして会計を済ませて隅っこの席に座る。
きょろきょろしながら。
そっとプラスチックの蓋を開けてポテトをそっと手に取ってシェイクに入れてみる。
…いつみてもシュールだ。
そっと引き抜いてはむ、と食べてみる。
「ま、不味くは、ない。…いや、塩の味が後味にめちゃくちゃくる…。な、なにこれ…。」
そしてそっと蓋を閉めてじゅるるるる…とストローでシェイクを飲む。
やっぱりふつうが一番だなぁ、なんて思った昼下がりだった。