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「シン、おいで?」

「ーっ…、」

命令された訳では無い、しかし体が逆らえずに1歩、また1歩と足が動く。

ダメだ、と思うのに体は本能に従って動いている。本能…、ほかの人の前では発言することはなかった「Sub」としての本能だ。

なぜか彼ー「如月ルヰ」くんにだけは逆らえない。

逆らい切れずに彼の胸の中にぽすん、と収まる。彼がどんな表情をしてるかが怖かった。ただ、見上げるとにっこり笑ってる彼の顔。それを見て僕は頬を赤らめてしまう。

「シン、『座って?』」

「あっ…!」

彼の命に本能のまま従って、地べたに座り込む。そもそも命令されるだけでとてつもない快感を感じる。背筋にぞくぞくとしたものが走る。あぁ、僕は、彼の前だけでは「Sub」なのかもしれない。

そうして彼は僕を見おろして一言。

「そんな顔して…、誘ってる?」

「そんな、わけ、」

「でも顔真っ赤だよ?」

「否定は、できない…、です…。」

「ふふ、ごめんね?意地悪が過ぎたね?…大丈夫。シンに酷いことをしたいわけじゃないから。…ほら、立って?」

「うん…。」

そうして、彼に手を引かれるまま立ち上がると、やさしく抱きしめられる。

そんな彼…如月ルヰくんはどこから見ても生粋の「Dom」だった。

「にしてもシンがSubだなんて意外…。」

「ん…、すいっちのほう…、言われて座ったの、ルヰくんが、はじめて…。」

「そうなの?…じゃあ僕以外の誰かと一緒だったってことは、」

「ない、よ。ルヰくんが、はじめて。」

「そっか。…ねぇ、シンは、僕のこと、好き?」

「…どのいみできいてるのかはわからないかど、少なくとも嫌悪感よりは好意の方が上だよ?」

「そっか。…」

「ぁ…、」

やばい、何かを踏んだ、とおもった。その瞬間彼の腕にこもる力が増したのも感じた。怒らせた、おしおきされる、やばい、

「シン…?」

「っひ!」

「怖がらないでよ…、別に怒ってないよ?…嫌悪感を抱かれてないことに関してほっとしただけだから。」

「ルヰ…くん…、」

「そんな怯えた顔しないで?…笑顔の方がみたいな…。」

「あ…、」

そしてきっと不器用な笑顔を彼に見せた。それから頬を手でそっと撫でられて、こわばってる、と悲しそうな顔で告げられる。

それを聞いてぼろり、と涙をこぼしてしまう。

背中をとんとん、とされながら彼に抱きついて声を上げて泣いてしまう。

「シン、泣き止んで…?ごめん、怖がらせちゃったんだよね?お願い…。」

「ルヰくん…、ごめんね、ごめん…。」

自身もどうしてこんなにも不安定なのかわからない。ただ、ルヰくんが怒ってないことだけが救いだった。

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「泣き止んだ?」

「…うん。ごめんね?こんなに泣いちゃって。」

「僕は大丈夫。…シンは大丈夫?…ってその顔で大丈夫なわけない…よね。」

「え?」

「目、真っ赤だよ?泣き腫らした顔してる。…実際そうなんだろうけど…。」

「ごめん。」

「謝らないで?ね?」

「…うん。」

そうしてシンは頭をたれて、虚ろな目をしている。あぁ、彼は何を考えているの?…わからない、わからない。

「シン…?」

「…ん、なに?ルヰくん…。」

声をかけると、虚ろな目のままこちらを見て返事をくれる。いつもの元気な顔じゃない。…それが辛くて僕もぼろり、と涙を零してしまう。

「ルヰくん…?!」

慌てふためく彼の声が聞こえる。

すこしだけ僕よりも無骨な指が僕の頬を恐る恐る触れてきて、それからそっと涙を拭ってくれる。

「なにかしちゃった…?ごめんね…?ごめん…、っふ…、」

そうして彼自身ももう1度泣き始めてしまった。ボロボロと泣きながらお互いに頬に手を添えると、逆に笑えてきてふふ…と笑うと、彼も自然と笑ってくれる。

「ねぇ、ルヰくん。」

「…なに、シン。」

「ルヰくんになら…いいよ?」

「…シン…、」

「初めてあった時からさ、ルヰくんとは初めて会った気がしなくってさ。…こうして近くにいるのも楽しくて。…さっきはびっくりしちゃったけど…、でも、それでも嫌悪感は、ないんだ。…だから。」

「…そう、なの?」

「ル、ルヰくんさえ、よければ…、だけどさ。」

少しだけ彼の声は震えていて。

でも、僕になら、任せられると言ってくれて。…ただ、僕自身は彼のことをたくさん知っていても、シンは感覚で僕にならと思ってくれてるだけで。僕のことをあんまり知らないのにも関わらず。

「ね、シン。すこしさ、普通に付き合って、それからじゃ、だめ、かな?」

「…ルヰくんが、そういうなら。」

すこしだけ寂しそうに微笑む彼に、選択肢を間違えたかな、と一瞬思う。

だけれども理由はちゃんとある。すこし僕の本来の理由とは違うけれど、…でも、話したら分かってもらえるかな。

「一応、理由はあるんだ。…お互いのこと、まだそんなに知らないのに、明け渡してもいいって気持ちは嬉しいんだ。でも、お互いのことをもっと知ってからでも遅くはないかなって。…もっと、僕のことを知った上で、もう一度言ってもらいたいって、そう、思ったんだ。」

「ルヰくん…、うん、それなら。それならしばらくは普通に、お付き合いからお願いします…!」

理由を聞いた彼は僕に微笑んでから、僕の腕を胸元に持ち上げて、そうして大切そうに抱きしめて笑ってくれる。

あぁ、大丈夫だ、これなら、と思えたんだ。

君のことはずっと好きだった。…ようやくその気持ちが届く、そのことが嬉しくて僕も微笑み返したのだった。

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